2025年9月19日、アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領によって、「特定の非移民労働者の入国制限(Restriction on Entry of Certain Nonimmigrant Workers)」に関するProclamationsが発表され、H-1Bビザ制度の濫用を防ぐため、新規申請には10万ドルの特別支払いを義務付ける新方針が打ち出されました。
- H-1Bビザ新規申請者に対し、10万ドルの「特別支払い」を義務付けた。
- STEM(科学・技術・工学・数学)分野におけるH-1Bの濫用と賃金圧迫が問題視された。
- 米国内のIT分野で進む「アメリカ人解雇・H-1B雇用」の構造に対し、制度的な歯止めをかける狙い。
- 国益に資すると判断される場合には、DHS長官の裁量で例外適用も可能。
- 2026年9月までの1年間限定措置として発効。
背景
H-1Bビザ制度は、高度な専門性を有する外国人労働者をアメリカに一時的に受け入れる目的で設けられた制度だが、長年にわたり米国人労働者の代替手段として乱用されてきたとトランプ政権は指摘している。
近年ではIT業界を中心に低コスト労働力の輸入手段として機能し、アメリカ人技術者の職を奪う構造が拡大しているとみられており、特にSTEM分野(科学・技術・工学・数学)においては、外国人比率の上昇が顕著で、賃金の低下、若者の雇用機会喪失、ひいては国家安全保障への悪影響が指摘されてきていた。
構造的問題とその拡大
▶外国人労働者の急増(2000年〜2019年)
- STEM分野の外国人労働者数:1.2百万人から 2.5百万人に(2倍以上)
- STEM全体の雇用成長率:44.5%増(外国人労働者の増加ペースに対し低水準)
- コンピューター・数学系の職種における外国人比率:17.7%から26.1%に
- 「コンピューター科学」「コンピューター工学」の新卒者における失業率:それぞれ6.1%および7.5%と、生物学や美術史専攻の失業率の2倍以上
▶IT業界におけるH-1B濫用の典型事例
- IT業界におけるH-1B利用率:2003年が32% だったのに対して、 近年は平均65%超と集中
- 主要なH-1B雇用企業:多くが、ITアウトソーシング企業
- 技術系企業の動向:H-1Bを活用して「36%安い労働力」を得ており、アメリカ人社員の解雇と置き換えが進んでいる
▶実際の雇用動向と衝撃的な数値
複数のIT企業において、数千人規模のH-1Bビザ取得と同時期に多数のアメリカ人従業員が解雇される実態が明らかになり、外国人労働者の採用が国内雇用の置き換えに直結している深刻な構造が浮き彫りとなっている。
| 2025年H-1B承認数 | 同年度のレイオフ数 | |
| 企業A | 5,189人 | 約16,000人 |
| 企業B(オレゴン) | 1,698人 | 2,400人 |
| 企業C | 25,075人(2022年〜) | 27,000人(2022年〜) |
| 企業D | 1,137人 | 1,000人 |
また、一部企業では、解雇されるアメリカ人が、自分の代替者となる外国人を研修させられ、NDA(秘密保持契約)への署名が強制されていた。
▶大学卒業者の失業率
2025年現在、STEM分野新卒者の失業率は文系よりも高いという逆転現象が確認されている。
- コンピューターサイエンス:6.1%
- コンピューター工学:7.5%
- バイオロジー:2.7%
- 美術史:2.9%
新たな制度の内容と構成
労働省が「市場に合致した賃金水準」への改定ルール策定を開始したほか、現在の低賃金区分(Level 1〜2)の削減が検討されている。また、DHSが高報酬人材の優先審査・選抜ルールを導入予定で年収ベースでの審査加点や、優先抽選制度が導入される可能性がある。
▶入国制限の内容
- H-1Bビザ申請には10万ドルの支払いが必須(2025年9月21日以降)
- 対象は、米国外にいる新規申請者(更新申請は対象外)
- 有効期間は2025年9月21日〜2026年9月20日(1年間)
▶例外規定
- DHS長官の裁量により、「国家の利益に資する」場合は支払い免除可能
- 個人・企業・業界単位での例外も検討される
▶申請者・企業の義務
- 支払いの証拠を事前に取得・保存
- 国務省が審査時に支払い確認を実施し、不履行者は却下
- DHSと連携して監査・違反時の罰則を整備
今後の改革方向
▶賃金水準の見直し
- 労働省により、H-1B申請者に求める賃金水準(Prevailing Wage)を引き上げるルールを策定
- この金額は、アメリカ人労働者の賃金引き下げ抑制のための抑止策として位置づけられる
- 低賃金区分(Level 1〜2)への依存削減を目指す
▶高スキル・高収入人材の優遇と審査の厳格化
- DHSによる抽選制度の改革により、高収入人材の優先抽選・迅速審査を実施
- 企業は申請前に支払い証明を保管
- 国務省および国土安全保障省が支払いの有無を厳格に審査し、不履行の場合はビザ発給を拒否
▶国益例外の設定
- DHS長官が「国家の利益に資する」と判断した場合は例外的に申請料免除が可能
- 科学、技術、安全保障などの分野に限定される見通し
▶制度の適用範囲と見直し
- 既存のH-1Bビザ保有者や、更新申請者には適用されない
- 2025年9月21日以前の申請も対象外
- 次回のH-1B抽選終了から30日以内に、関係省庁が大統領へ延長・恒久化の必要性を報告
影響と今後の焦点
- 外国企業・技術者にとって極めて高額なコスト障壁となり、申請数の大幅減が予想される
- 日本企業にも影響し、米国現地法人への駐在・IT人材派遣に見直しが必要となる
- H-1B制度そのものが、「一部の高度人材のための枠組み」に再定義される可能性が高い
大統領のコメントと意図
トランプ大統領は、「この制度は、アメリカ人労働者の権利を取り戻し、不正利用されてきたH-1B制度を正す歴史的な転換点である」と強調。「雇用はアメリカ人第一であるべきであり、制度はアメリカの利益に資する者だけに開かれるべき」との基本理念を打ち出した。














コメントを残す